第9章 一番風呂が一番良いとは限らない。
意味深な葵咲の台詞に、その真意を読み取れず問い返す山崎だったが、葵咲はふと我に返ったように表情を戻し、両手を振って笑って見せた。
葵咲「あっ、いや、ごめん。なんでもない!」
山崎「? …まぁ、そこまで言うなら分かった、でも今日だけ先に入りなよ。」
葵咲「でももうすぐ皆帰ってくるんじゃ…。」
山崎「大丈夫!俺は別の仕事があったから先に帰ってきたけど、他の皆は今日は夜遅くなるみたいだから。」
葵咲「そうなんだ。」
山崎「それ待ってたら葵咲ちゃんお風呂入れなくなっちゃうし。だから、今日だけ贅沢って事で。これは俺と葵咲ちゃんだけの秘密。」
そこまで言われては無下に断るのも申し訳ない。そう思った葵咲は、今日だけ、という事で山崎の提案を受け入れる事にした。
葵咲「ありがとう退君。じゃあ今日だけ、ね。早速今から呼ばれようかな。」
山崎「うん、ゆっくり一番風呂堪能して。」
そう言って葵咲は風呂場へと向かった。山崎は女の子と秘密を共有するという事に酔いしれ、暫くその場に佇んだ。あまり女に免疫のない男には仕方のない事なのかもしれない。そんな気分に浸りながらも、少ししてから別の仕事の為、屯所を出て行った。
真選組屯所の風呂は隊士達が一斉に入れるよう、大浴場のような造りになっている。また、シャワールームやサウナも完備されており、そこらへんの銭湯よりも、なかなか贅沢な仕様だ。
葵咲「こんな広いお風呂に一人で一番風呂なんて、ホント贅沢~。なんかちょっと緊張するな~。」
大浴場を一番風呂で貸切状態だ。これには贅沢という言葉以外見つからない葵咲だった。