第82章 マウスの実験はあてにならない。
(葵咲:まず手始めに、あのドSバカから…。)
速やかに一郎兵衛の依頼を遂行しようとする銀時。制限時間は八時間しかないのだ。急がなければならない。
銀時は黒い笑みをニヤリと浮かべ、芝居小屋の出口の方へと歩を進めようとした。
だがその時、葵咲が銀時の肩をガッと掴んだ。
銀時「ちょっと待って。屯所に帰って何するつもり?」
ギクリ。
思わず冷や汗を垂らす銀時。葵咲に背を向けていて助かった。向き合っていたら表情でバレていたかもしれない。銀時は平常心を保てるよう息を吸い込んでから振り返った。
葵咲「何って…別に何もしねーよ。ボロが出ねぇように部屋で大人しくしとくだけだろーが。」
銀時の顔をじっと見つめる葵咲。突き刺さるような視線は心の底を見透かされてしまいそうで心臓がバクバクだ。それを傍から見ていた一郎兵衛もまたヒヤヒヤしている。
葵咲「なっ、なんだよ…!」
銀時「お風呂入るつもりなんでしょ。」
葵咲「は?」
思っていたものとは予想外の追求に、銀時は目を瞬かせる。きょとんとしていると、葵咲は銀時を睨みながら言葉を続けた。
銀時「お風呂入って私の身体見るつもりなんでしょ!?」
葵咲「!!」
その指摘に雷に打たれたような衝撃を受け、銀時は驚愕の表情を浮かべる。そしてそのままの勢いでその場にくずおれた。
葵咲「…その手があったかァァァァァ!!」
一郎「言われて初めて気付いたんかーい!そこは男として一番に気付くトコだろォォォォォ!!」
男女の入れ替わり、女体化等で男が一番に思い浮かべるのは身体を見る事と触る事ではないのか。一郎兵衛の中には当然の如く浮かんでいた考えだった為、気付いていない銀時に衝撃を受けた。
一郎兵衛のツッコミを聞き、銀時はゆっくりと顔を上げる。
葵咲「いや、お前の依頼ごとで頭がいっぱいで。」
一郎「どんだけ周り蹴落としてーんだよ!お前の方がえげつねーじゃねぇか!!」
強欲と言うべきか、抜けていると言うべきなのか。二人のやり取りを見ていた葵咲は顔を真っ赤にして怒りを浮かべている。その事に気付いた銀時と一郎兵衛はハッとなって恐る恐る葵咲へと目を向けた。葵咲はフルフル震えながらも怒りを口にした。