第82章 マウスの実験はあてにならない。
一郎兵衛の本気と、その理屈は分からんではないが、なかなか非道な手段である。他の花魁からも客を奪い取っていた一郎兵衛の性質は変わっていないらしい。まぁそれはそれで良いのだが、一つ別の疑問が頭に浮かんだ。
葵咲「つーかそれならお前が葵咲と入れ替わりゃ良かったんじゃねーのかよ。」
わざわざ銀時と葵咲を入れ替えるより、自分が入れ替わって片っ端からフっていく方が手っ取り早いのではないだろうか。その質問を受けて、一郎兵衛は一度銀時と視線を合わせた後、再び視線を逸らして静かに理由を語り始めた。
一郎「例え相手が男でもだ。俺はフるなんて事ァ出来ねぇ。フる事に慣れてねーんだ。来るもの拒まずの体質が抜けきってなくてな。ボロが出そうで…!」
葵咲「お前ソレなかなかのゲス発言だって気付いてるか?」
流石は生粋のプレイボーイ。と、言いたいところだが、決して褒められる事ではない。真剣に語る一郎兵衛が滑稽で、思わずツッコミを入れてしまう銀時であった。
そんな銀時に一郎兵衛は言葉を付け加える。
一郎「とまぁそれは半分冗談として。」
銀時「半分は本気なのかよ。」
一郎「俺はまだ葵咲の周りにどんな奴がいて、誰があいつに惚れてるのかとか知らねぇからな。お前の方が詳しそうだと思ってよ。それに、銀としてもその方が安心出来んじゃねぇの?」
最近葵咲の周りには彼女に好意を寄せる男性が増えているのは事実。これは銀時にとっても面白くない事は確かだった。
一郎兵衛からの指摘に言葉を詰まらせる銀時。少し考えてから眉根を寄せて言葉を押し出した。
葵咲「・・・・まぁ、確かに悪くはねぇか。」
一郎「だろ?じゃあ交渉成立だな!」
この一郎兵衛自身も不穏因子とは言えるのだが、敵の敵は見方。ひとまず敵の数を減らす為にも、ここは共闘が打倒だと判断し、一郎兵衛と手を組む道を選んだ。
そして銀時は重要な話へと切り替える。
葵咲「報酬は?依頼っつーからには ちゃんと金払えよ。」
一郎「んーそうだなァ…。」
銀時の要求は最もなのだが、一郎兵衛は具体的には考えていなかった様子。顎に手を当てて天井の方に視線を上げる。
少し考えた後、パチンと指を鳴らしてドヤ顔を浮かべた。