第81章 何を考えてるのかなんて本人しか分からない。
役者は全員男。そのうちの大半は華月楼から引き抜いてきた元花魁達だった。それ故この芝居小屋の名は『華月座(かげつざ)』と名付けられた。
劇は男版宝塚のような感じだ。男性が女性役もこなしている。当初は歌舞伎座としてオープン予定だったが、それだと歌舞伎という劇に限定されてしまう。歌舞伎や能、その他多種多様な劇を演じたいという役者達の想いから、独自の劇場となったのだ。
圧巻の演技力と芝居内容に葵咲と銀時は魅入られる。公演時間は約二時間だが、あっという間の二時間だった。芝居が終わり、役者の紹介も終えて幕は閉じた。二人は拍手喝采。銀時も思わず感嘆の声を漏らした。
銀時「へぇ。なかなかやるな。」
葵咲「うっ。ううっ。」
隣に座っている葵咲は拍手していたかと思えば、持っていたハンカチで涙を拭い、ティッシュを取り出して鼻をかむ。それを見た銀時は冷静なツッコミを入れた。
銀時「なんで泣いてんの。今の芝居に泣ける要素あった?」
感動モノのお芝居ではなかった。むしろ明るく、気持ちも晴れやかになり、笑いも溢れる芝居内容だった。全く持って号泣出来る要素が見当たらない。
銀時が死んだ魚のような眼を葵咲に向けていると、舞台横の関係者専用扉から一郎兵衛が出てきた。
一郎「どうだったよ?」
銀時「思ってた以上に良かったわ。」
一郎「へへっ。だろ?」
得意げに人差し指で鼻をすする一郎兵衛。期待以上の反応を得られて満足の様子だ。葵咲はハンカチを片手にまだ涙ぐんでいる。
そしてその場に立ち上がり、一郎兵衛の肩へと手を置いて感涙の言葉を掛けた。