第81章 何を考えてるのかなんて本人しか分からない。
芝居小屋で銀時も大江戸病院の医師の言葉を思い出していた。じっと自分の顔を見つめられている事に気付いた葵咲は、ふと顔を上げて銀時の方を見やる。
葵咲「? 銀ちゃん?どうかした?」
銀時「お前さ、こないだの健康診断より前に人間ドッグとか受けた事あんの?」
葵咲「!」
真剣に投げ掛けられる質問に葵咲は一度目を丸くするが、すぐさまいつもの表情へと戻した。
そして再び前を向き、真剣な眼差しで静かに口を開く。
葵咲「…ない。人間ドッグを受けたのはこの間が初めて。大怪我も大病をした経験もないからCTもMRIもこの間が初めて。だから…私ですら知らない動脈の位置を高杉が知ってるはずがない。」
銀時「!」
まさかそこまで答えてもらえるとは思ってもみなかった。自らの心を見透かされたような回答に驚く銀時。
銀時「お前、知ってたのか。」
葵咲「うん。」
葵咲は、松本が大江戸病院に事実確認をしに行った事は知らない。だからそこで銀時と松本が遭遇した事なんて知るはずもない。ただ何となく、銀時の声色や表情から話の内容が真剣なものであると感じ取ったのである。
仮に銀時がその事とは別件で話したのだとしても、その話へと持って行くつもりだった。
葵咲は前を見据えたまま静かに続ける。
葵咲「銀ちゃんは…いつから知ってたの?」
銀時「ついこの間。たまたまな。」
葵咲「そっか。」
そこで少しの沈黙が降りる。葵咲もその話をしたかったとは思っていたものの、何処からどう切り出せば良いのか分からず俯いてしまう。
その助け舟を出すかのように銀時が言葉を投げた。