第81章 何を考えてるのかなんて本人しか分からない。
先日人間ドッグを受ける前に葵咲はCTやMRIの検査は初めてだと漏らしていた。年齢も年齢だ。今までの健康診断で受けた事のある項目は最低限のもの。過去受けた事のある検診はレントゲン、心電図、血液検査に尿検査、血圧や身長体重測定、視力聴力検査のみ。それらの検査では動脈の位置まで分かるまい。
そして松本は更なる考察を捕捉する。
松本「それに、彼女を殺すつもりだったなら、そんなまわりくどい事せずに心臓を狙えば良い話でしょう。」
土方「・・・・・。」
松本の言うとおりだ。動脈を斬ったところで死ぬとは限らない。あるかどうかも分からない動脈を狙うより、心臓を狙う方が確実に仕留める事が出来る。土方は頬に一筋の汗を垂らした。
(土方:確かに、あの至近距離で奴が葵咲を仕留めていなかった事には疑問があった。だがこれじゃあまるで…。)
顔を青くして俯く土方に、松本はそっと言葉を掛ける。
松本「土方さん、それは当人に聞いて見ねば分からぬ事。」
土方「!」
ビクリ。
思わず背筋を伸ばし、松本に視線を合わせる土方。まるで心を読まれたかのようなその台詞に驚かされたのだ。土方が言葉を失っていると、松本は静かに続けた。
松本「今ここで我々が考えても出ない答えです。仮にその男が葵咲さんを“生かす為に、わざと”、そのように刺したのだとしても、そこに感情があるとは限りません。実際、その事件でも彼女を利用していたのでしょう?今後の手駒として生かされていると考えるべきです。」
土方「・・・・・。」
土方の立場を考え、気遣ってくれているようにも思える発言だが、松本の言わんとしている事も最もだ。根拠もないのに推測だけで進めるべき話ではない。
いつもの土方なら松本の言葉を素直に受け取った事だろう。だが、先程松本に高杉の事を訊かれた際、土方は飲み込んでしまった言葉がある。
土方の心の中にはモヤモヤしたモノが渦巻いていた。