第81章 何を考えてるのかなんて本人しか分からない。
それが話の冒頭で葵咲を刺したのは土方か?と尋ねた松本の真意だった。葵咲の身を護る為に取らざるを得なかった行動だったのかと。そして彼女の身体の負担を最小限に抑える為、極力傷付けないように細心の注意をはらった、それが松本の見立てだった。
だが、土方から事件の詳細を聞いた松本は再び頭を抱える事になる。それは…。
松本「その高杉という男、鬼兵隊の総督なんですよね?総督ともなると相当な手練。それぐらいの芸当をやってのけた事には納得がいきましたが…。」
土方「ちょっと待て!だがそれなら…!」
松本「そうです。ここで別の疑問が浮かぶ。敵であるその男が、何故葵咲さんを“そのように刺した”のか。」
土方「っ!!」
同じ疑問は土方の頭にも浮かんだ。土方は膝の上で拳を作り、眉根を寄せてきゅっと唇を噛む。松本も険しい顔のまま土方に質問を投げ掛けた。
松本「その男、何者なんです?葵咲さんと何か関係が…」
言うべきかどうか、少し躊躇いを見せる土方。だが少しの間を置き、腕組みしながら土方は静かに口を紡いだ。
土方「…高杉は、葵咲の幼馴染だ。」
松本「! …幼馴染…。」
土方「ガキの頃から知ってる。葵咲の話じゃ、高杉は葵咲にとって一番の馴染みだったらしい。」
松本「・・・・・。」
その説明を聞いて松本は沈黙を落とす。深く考え込むように顎に手を当てながら視線を下に落とした。そして今度は土方が松本に質問を投げる。
土方「何らかの経緯で葵咲の動脈の位置が分かってた、なんて事は?」
高杉が敢えて動脈を狙った可能性を考えた。だがそれに対して松本は首を横に振るう。
松本「流石にその可能性は低いでしょう…。医者の私ですら、見ただけではそこまで分かりません。全身のCTやMRI画像を入手していれば別ですが。」
土方「葵咲に大病の経歴はねぇしな…。」