第80章 想いを示すなら百の口説き文句より一の態度
カッとなってその場に立ち上がる土方を見て、松本はプッと吹き出した。
松本「冗談ですよ。」
土方「!?」
松本「いや~実に良い表情を頂きました。」
土方「あっ!てめっ…!」
にっこりと向けられる笑顔を見て、自分がからかわれた事に気付く土方。そんな土方の慌てふためく姿を見て、松本は更に満悦の表情を浮かべている。ぐぬぬと声にならない怒りを携えている土方を、宥めるように松本は葵咲の傷を知った経緯を話し始めた。
松本「華月楼内でいざこざがあり、その手当をした際に目にしただけです。彼女とはまだそういう行為はしてませんよ。」
その事情には納得のいった土方だったが、一つ気になるワードがあった。それについてすかさずツッコミを入れる。
土方「まだって何だよ、“まだ”って。」
松本「これからどうなるかは分からないでしょう?」
土方「…っ!」
悪びれる様子も恥ずかしがる様子も見せずに淡々と話す松本に、土方は思わず言葉を詰まらせてしまう。松本はそんな土方の反応にも飽きてしまったのか、真顔で話の筋を元に戻した。
松本「それより、そんな話をする為にわざわざここへ来たのですか?」
土方「ぐっ。…で?事実確認がどうのってのは何だったんだよ?」
土方からの言葉を受け取り、松本は少し考え込むように一度言葉を飲み込む。
そして口元を隠すように顎に手を当てながら言葉を押し出した。
松本「・・・・お話しする前に貴方に確認しておきたい事が。」
土方「?」
少し曇ったような表情を浮かべる松本。土方は怪訝な顔をしながらも松本の次の言葉を待つ。少しの間を置き、松本はストレートに質問を投げ掛けた。
松本「刺したのは…貴方ですか?」
土方「な…っ!?」
唐突過ぎるその質問に、土方は再び言葉を失ってしまうのだった。