第80章 想いを示すなら百の口説き文句より一の態度
その頃、松本クリニックでは午前の診療を終え、土方が再び医院へと訪れていた。部外者に聞かれる事を懸念して人払いをする。患者は勿論、看護師も退院させられていた。誰もいない医院、診察室で静かに土方は口火を切った。
土方「あの件はどうなった?」
松本「あの件?」
土方からの問い掛けに片眉を上げる松本。何の件か分からないといった様子の松本に、土方は苛立ちを見せて詳細を口にする。
土方「葵咲(あいつ)の脇腹の刺され傷の事だよ。」
松本「あぁ。」
言われて初めて気付く松本。その表情に土方は更に苛立つ。そして眉根を寄せて、その苛立ちを表現するように貧乏揺すりしながら腕組みした。
土方「おい。まさか忘れてたんじゃねぇだろうな。」
松本「すみません、上司の威厳が無いもので。」
全然謝られている気がしない。むしろ嫌味炸裂のその発言に、土方は右手に拳を作る。
土方「喧嘩売ってんのかコノヤロー。つーか何でお前があの傷の事知ってたんだよ!」
松本「そりゃあ貴方が彼女を送り込んだのは、遊郭(そういう世界)ですよ?お忘れですか?」
土方「なっ!」
フフンと鼻で笑われながら放たれる意味深なその台詞に、土方の神経は逆撫でされる。宣戦布告のような松本の言葉に土方は頭に血を上らせた。