第80章 想いを示すなら百の口説き文句より一の態度
一郎「いや、悪かったよ。本当にふざけてなんかいねぇんだ。」
葵咲「?」
一郎「確かに、最初は単にお前の容姿が気に入ってただけだった。けど今は違う。葵咲には華月楼で助けてもらったっつー恩義があるのも勿論だけどよ。そんなんじゃねーんだ。真っ直ぐに突き進むお前の背に惹かれたんだ。俺ァこんな性格だから嘘臭く聞こえるかもしんねーけど、この想いは嘘じゃねぇ。」
改心の一撃…もとい、全身全霊をかけた愛の告白。華月楼での軽い口説き文句とは違う。一郎兵衛は清々しくも真剣な顔をして葵咲の方へと振り返る。
一郎「俺は本気でお前の事が…」
振り返った先に葵咲の姿は無かった。辺りを見回すと、脇道にしゃがみ込む葵咲がいた。葵咲はダンボールに入っていた子猫を抱き上げている。
葵咲「見て見て一郎君!子猫!捨て猫かな?あ、そうだ!この子看板猫にどう?」
一郎「・・・・・。」
そうだ。コイツはド天然。それは知っているが、まさかこんな形で一世一代の愛の告白が地に落とされるとは。流石の一郎兵衛も心が折れそうだった。だがここでくじけるわけにはいかない。一郎兵衛は小さく溜息を吐いて葵咲の横へとしゃがみ込んだ。
一郎「やっぱ俺にゃ本気の告白なんざ向いてねぇな。」
葵咲「?」
一郎「口先だけの男にゃならねぇ。態度で示す。」
その言葉を放つと同時に、一郎兵衛は葵咲の首元に手を回して顔をぐいっと自分の方へと引き寄せる。そして半ば強引に唇を重ねようとした。