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銀魂 - 雪月花 -

第80章 想いを示すなら百の口説き文句より一の態度


獅童「一郎兵衛(いちろべえ)。下の名前で呼んでくれよ。」


流石は元ナンバーワンの花魁。その甘美な声は非常に心地良く、葵咲は一瞬ドキッとしてしまう。このままではいけない。獅童のペースに乗せられてしまう。そう思った葵咲は高鳴った気持ちを落ち着かせて獅童の下の名を呼ぶ。


葵咲「一郎兵衛さん。」

一郎「“さん”付けも禁止。」


少し苛立った声の獅童…いや、本名“斎藤一郎兵衛(さいとういちろべえ)”。その声色を感じ取った葵咲は少し照れながら名前を言い直そうとする。


葵咲「い…一郎…くん。」

一郎「・・・・・。」


尻すぼまりな発言に一郎兵衛は眉根を寄せた。葵咲は基本的に人の名を呼び捨てでは呼ばない。“一郎兵衛君”という呼び方も少し長く感じ、その考えた末に出た答えが“一郎君”という呼称だった。だがそんな葵咲の心情など知らない一郎兵衛は思ったままの感想を述べる。


一郎「なに?焦らしプレイ?」

葵咲「違うよ!」

一郎「じゃあ早く呼び捨てで呼べよ。呼んでくれたら離してやるし、ご褒美に今度、最っ高に“気持ち良いお返し”してやるぜ♡」


勿論、この“気持ち良いお返し”とは性的な意味合いである。そういった事に疎い葵咲だが、口を開けば下ネタばかりの(…というのは失礼かもしれないが。)一郎兵衛を知っている葵咲は、その発言の意味に容易に気付く事が出来た。葵咲は観念したように肩の力を抜き、堕落したような目付きで言葉を返した。


葵咲「あー、じゃあ離さなくて結構です。私のこと一生離さないで。」

一郎「その台詞ってそんな低テンションで言う台詞じゃなくね!?本来甘い香りのする台詞だよね!?つーか離さず出来ずじゃ生殺しなんだけどォォォォォ!!」


『一生離さないで』なんて台詞は本来なら愛を語る台詞の一つではないだろうか。プロポーズでも良いくらいだ。それを棒読み以下の投げやりな声音で聞く日が来るとは思いもしなかった。しかも恋人以下の待遇では、はっきり言って地獄だ。それは一郎兵衛じゃなくても世間一般の男子なら同じだろう。
そして更に一郎兵衛を苦しめるような発言を葵咲が被せてくる。


葵咲「一生離さず、私の胸の内で悶え苦しむが良いわ!フハハハハ!」

一郎「何処の悪役(ヒール)だよ!!」


これは一郎兵衛の完敗である。一郎兵衛は大きなため息を吐き、観念して葵咲を離した。
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