第79章 普段お母さんがしている仕事はお父さんには出来ない。
近藤は葵咲が隊士となるに至った経緯を話した。元々は女中だった事、隊士となったのは余儀なくされる理由があった事、そして上からの命令によっては任務を断れない立場にある事を。
全ての話を聞いた松本は、眉根を寄せながらも納得の姿勢を示す。先程は頭に血が上った状態だったが、それも近藤の話を聞くうちに冷めてきたようだ。
松本「…そうでしたか。状況は理解しました。ですが無理をさせすぎです。危険な潜入捜査までさせるなんて。」
近藤「?」
潜入捜査の事を知らない近藤はきょとんとした顔を浮かべている。そんな近藤の表情には気付いていないが、これには土方が反論を示した。
土方「あれはあいつの意志を汲んだんだよ!俺は最初許可しなかったからな!」
松本「それでも止めるのが上司の役目でしょう。上司としての威厳が無いのでは?」
土方「ぐぬぬぬ…。」
そう言われてしまっては返す言葉も無い。土方は右手に拳を作って歯噛みした。口喧嘩の勝者は松本。だが松本はここでやめるのではなく、更に発言を重ねた。
松本「今後はきちんと是正するよう気を付けて下さい。ましてや刺されなければならない状況など、言語道断…」
土方「!」
松本の発言を聞いた土方は顔色を変える。そして発言の途中で松本の肩をガッと掴み、問い質すように質問を投げ掛けた。
土方「まさかあの傷が影響してるってのか!?」
松本「え?あ、いえ…。」
あまりの形相に目を瞬かせる松本。言葉を詰まらせる松本に土方が質問を重ねた。
土方「三週間の入院じゃ短すぎたってのか!?」
松本「三週間の入院!?どういう事です?」
まるで思ってもみなかった言葉を聞いたというように松本は目を丸くする。そんな彼の表情を見て、今度は近藤が慌てて口を挟んだ。
近藤「医者の診断で最低三週間って言われたんだが…。やっぱりもうちょっと休ませるべきだったのか?」
松本「!? それって右わき腹の傷、ですよね?」
間違いないか、念を押して確認する松本。もしかしたら自分の示した刺し傷と、近藤・土方が考えている傷とは別物なのではないかと思った為だ。だが近藤は松本の示す傷に間違いはないと頷いた。
近藤「? ああ。」
松本「・・・・・。」