第79章 普段お母さんがしている仕事はお父さんには出来ない。
二人の優しさが身に染みる。病気の状態だから尚更だ。
じーんとしたところで、折角なので葵咲は受け取った書類へと目を通す。だが目を通し始めてすぐに、とある事に気付く。
葵咲「…ん?退君、これ、仕訳は?」
山崎「仕訳?」
葵咲「うん。勘定科目は?」
山崎「カンジョウカモク??」
本来、会計処理は経費を仕訳けて作成する。電気代なら光熱費、電話代や郵便代は通信費、打ち合わせ等の費用は会議費…等々。だが山崎の作成した会計報告書は一切仕訳けられておらず、収入と支出の二行しか書かれていなかったのだ。これでは会計報告書ではなく、単なる小遣い帳だ。
その事について葵咲は掻い摘んで説明する。
葵咲「えっと、旅費交通費とか接待交際費とか、内容によって経費項目を分ける必要があるんだけど…。」
山崎「収入と支出に分けたらいいんじゃないの?」
会計処理なんてした事がない山崎は、ぽかんとした様子で葵咲の話を聞く。全く話の通じていない山崎の顔を見て、葵咲は説明の口を止める。
葵咲「・・・・・。」
山崎「・・・・・。」
もともと山崎達がする必要等ない仕事だったのだ。これはあくまで二人が好意でやってくれた事。責めるわけにもいかない。むしろその気持ちだけでも感謝しなければ。
葵咲はそう思いなおし、首を横に振って笑顔を作る。
葵咲「…あー…いや、いいや。とりあえず支払いの手続きは出来てるし、大丈夫。請求書整理してくれてありがと。」
山崎「うん、また何かあったら何でも言って。」
ひとまず葵咲の笑顔が見れた事で、山崎と原田は安心したように笑顔を返す。
そしてこれ以上話すと葵咲の身体に負担を掛けてしまう思い、二人は部屋から退散した。
葵咲は受け取った報告書を眺めながら考える。
(葵咲:会計報告書は熱下がったらやり直そ。)
その為にも早く熱を下げなければ。そう思い、再び横になろうとしたその時、ボン!という大きな爆発音が聞こえてきた。
葵咲「?」