第79章 普段お母さんがしている仕事はお父さんには出来ない。
布団に横になるものの、眠る事が出来ずに天井を見つめる葵咲。ぼーっとしながら何気なく土方の事を考える。
(葵咲:さっき顔が熱かったのは熱のせいだったのかな…。)
華音の創り出した幻術世界の事を思い出した際に、不意に頭の中を過った土方への気持ち。自分は土方の事が好きなのかとも思ったが、顔が熱くなり、のぼせた状態になったのは熱のせいなのだと勝手に納得してしまう。
そして考え事の延長で自分の仕事の事を思い出した。
葵咲「あ、そうだ…今月末の支払手続きまだだった…。」
内々の報告書類は後日で良いとしても、支払手続きは後回しには出来ない。
葵咲はゆっくりと上体を起こし、立ち上がろうとする。その時、部屋の外から声を掛けられた。
山崎「葵咲ちゃん、ちょっと良い?」
葵咲「はーい。どうぞー。」
応答の後、そっと襖が開けられる。山崎と原田が葵咲の部屋へと入ってきた。山崎は何やら書類を手に持っていた。仕事の話だろうか?熱のある状態で出来る事なら良いのだが…。
責任感の強い葵咲は自分の体調と仕事の事を天秤に掛ける。
そんな葵咲の考えを知ってか知らずか山崎は仕事の話を始める。
山崎「最近忙しくて勘定方の仕事滞ってたんじゃない?」
葵咲「ごめんなさい、まだ出来てない急ぎの分は今から…」
ちょうど今しようと思って起き上がったところだ。その事を告げようとすると、山崎と原田はニヤリと笑みを浮かべ、持っていた書類を葵咲の前に差し出した。
山崎「そう言うと思って。支払報告書作成したんだ。」
葵咲「え?」
まさかそんな事を言われるとは思ってなかった。葵咲が目を瞬かせていると、山崎と原田は少し呆れたような表情で優しい微笑を零す。
山崎「こんな時くらいゆっくり休んでよ。」
原田「俺達が代わりにする。だから何でも言ってくれ。」
葵咲「退君、原田さん…。有難う。」