第78章 天は二物も三物も与えはしない。
葵咲が廊下を唸りながら歩いていると、その近くを土方がたまたま通り掛った。土方は葵咲に気付き、彼女の傍へと歩み寄る。葵咲は土方には一切気付いておらず、華音の術について考えを巡らせていた。
(葵咲:私の理想とする世界?土方さんの彼女になる事が…?・・・・いやいやまさか。…それとも単に欲求不満なのかな…。)
考えれば考える程深みにハマっていく。夢の中での土方を思い出すと照れくさくもなり、顔が熱くなる。しかも土方の部屋での出来事を思い出すと、顔から火が出そうだ。
葵咲が思考をぐるぐるさせている事など知らない土方は、何気なく葵咲に話し掛けた。
土方「葵咲、こないだの検診結果出たんだろ?どうだったんだ?ちゃんと病院行ったのか?」
土方の声を聞いて無意識に振り返る葵咲。葵咲は腕を組み、顎に手を当てながら難しい顔で土方の顔をじっと見つめる。
葵咲「でも、そういえば土方さんって何気にレベル高いよね。」
土方「あん?」
唐突に放たれる言葉に、土方は片眉を上げる。どうやら葵咲は散々土方の事を考えるあまり、その延長と化してしまい、目の前にいるのが実物の土方だとは気付いていないようだ。しかも考えが口に出てしまっていた。
葵咲「今までそういう風に見てなかったからアレだけど、3高(サンコウ)のうち高身長、高収入の2高は獲得済み。高学歴は…んー…天は二物は与えても三物与える事は無かったって事か。まぁ仕事は国家公務員だし、正味学歴は関係ないっちゃ関係ない。顔面偏差値も高い…。嗜好や言動には少々難有りだけど、それ差し引いてもかなりの優良物件なんじゃ…。」
土方「さっきから褒めてんのか、ディスってんのかどっちなんだよ。つーか何つーゲスい評価立ててんだオメーは。」
葵咲「え?」
頭の中の土方が突然語り掛けてきた。いや、頭の中だと思い込んでいたのは葵咲だけ。面と向かって話し掛けられ、初めてそれが実体の土方だと気付く。葵咲は目を瞬かせた後、数秒遅れて大声で叫んだ。