第78章 天は二物も三物も与えはしない。
その頃の真選組屯所。
葵咲は頬に手を当て、深く目を瞑りながら廊下を歩く。
葵咲「ハァ~~~~~。」
今までにない大きなため息。その理由は華月楼での華音との戦闘にあった。
(葵咲:私が土方さんの彼女…。なんであんな夢見ちゃったんだろ…。)
そう、華音の放った術中にはまり、夢の世界へと誘われた件だった。幻術世界での葵咲は高校生で、同じクラスの土方と付き合っているという設定だった。
無事に幻術から開放された後、葵咲は銀時と話の擦り合わせを行なった。また対峙する可能性のある敵、華音。次に戦った時にまた同じ状況に陥らない為にも、その術の検証を行なおうと試みたのだ。二人はそれぞれどんな夢を見ていたのか、そもそも本当に同じ世界にいたのか。
勿論、見て聞いて体験した全てを話してはいない。銀時は月詠に誘われた事、葵咲は土方とそういう雰囲気になった事は話せなかった。それは銀時が華音から気になる情報を得ていたからだ。
銀時「華音(ヤツ)の話じゃ、あの世界は“俺達が理想とする世界”だったみてぇだ。術の原理は分からねーけど、俺らの記憶や経験、思考や気持ちから創り上げられた世界ってところか。まぁあくまで推測だけどな。それに俺の理想とはかけ離れてたところを見ると、失敗したのか、ヤツが単に未熟なのか…。」
銀時が保健室での月詠からの誘いについて話さなかったのは、そんな下心があったのかと誤解をされたくなかったから。葵咲も似たようなもので、欲求不満なのかと思われたくなかった為、土方の部屋では勉強していただけだと伝えた。
銀時の推察はあながち間違ってはいないのだろう。銀時は地雷亜との戦闘後、またもや窮地を救った礼という名目で吉原の客室にて月詠に誘われた(?)経験がある(コミック30巻262訓参照)。これは単なる日輪の計らいで月詠の勘違いに過ぎないが、事実は事実だ。
葵咲と土方もこれまで幾度も接近を重ねている。恋人同士としての接近ではなく、事故や偶然といったものがほとんどだが、土方自身も気付いていない彼の深層心理は行動に現れ始めている。その事も作用し、あんな夢の世界になったのだろう。
勿論、葵咲はそこまでの結論には行き着いていない。だからこそ辿り着けない答えに悶々としながら頭を抱えているのである。