第78章 天は二物も三物も与えはしない。
それから約二時間が経過。時刻は午後一時を回っている。
大抵の病院は午前中の診察受付終了時刻は正午前後が多いのだが、松本クリニックはあまりの繁盛故、受付は十一時に終了。この日は銀時が最後の患者だった。まぁ銀時の場合は“患者”という表現はあまり相応しくないが。
待合室も落ち着き、本来の静けさが取り戻されている。銀時の前の患者の診察が終わり、入れ替わりで銀時が看護師に呼ばれた。
「坂田さーん、どうぞー。」
松本「すみません、お待たせしました。」
銀時「待つだけで体力使った気がするんだけど。」
ただじっと待つ事に疲れたのも そうだが、それ以上に女性患者の騒がしさに疲れたのだ。更には男性患者が銀時一人というアウェー感。疲れに加えてストレスも感じていた。
そんな銀時の心労に、松本は申し訳なさそうな顔で応える。
松本「困ったものですよ。仮病の方が多くて…。」
胸が痛むだの、クラクラするだの症状は訴えるものの、診察してみれば何の異常もない。今後の対応に頭を悩ませる松本だったが、そんな松本に対して銀時はフッと笑みを零して暖かい視線を向ける。
銀時「まぁ良いじゃねーか。健康って事なんだからよ。深刻な病気よりずっと良いさ。」
松本「確かにそうですね。健康が何よりも大事です。」
銀時「それに繁盛してる証拠だろ。」
松本「ええ、有難い事です。ホント、美しさって…罪ですよね。」
前半はとても暖かい笑顔で銀時の意見に応えていた松本。だが最後は一変、哀愁を漂わせた色男の表情で前髪を掻きあげた。それを見た銀時はいつもの表情に戻って即座にツッコミを入れる。
銀時「何なのコイツ。すげー腹立つんだけど。殴っていい?」
そんなツッコミには反応せずに松本は普段通りの表情に戻して話を続ける。
松本「しかしまぁ、私の思い描いていた夢には程遠いです。」
銀時「夢?」
松本「医者は私の幼い頃からの夢なのですが…。」
少し俯き加減に首を横に振る松本。松本の夢とは一体?無償で多くの患者を救うとか、どんな病も治してやるとかだろうか?
銀時が松本の次の言葉を待っていると松本は顔を上げ、斜め上へと視線を向けながら自らの夢をぼやいた。