第77章 誰もに必要なのは、“帰る場所”。
近藤「折角診療所を開ける事になったってのに、自由に医院を運営出来なくて申し訳ねぇ。」
松本「何をおっしゃるんです。本当なら牢屋に入れられているところ、こうして自由に生活出来て、しかも診療所まで持たせて貰えるなんて感謝してもしきれませんよ。それに、恩人達の手助けをさせてもらえるんです。むしろ願ったり叶ったりです。」
これは松本の本心だった。社交辞令や近藤を安心させる為の言葉ではない。
仮に真選組隊士達の往診を最優先させる事を促されていなかったとしても、松本は自らの意思で隊士達の事を優先させるだろう。それは華月楼での松本の対応を見ていた葵咲にはすぐさま分かった。
一同が微笑ましい空気に包まれている中、山崎は眉根を寄せて土方の袖を引く。ちょいちょいと突かれて土方は片眉を上げた。
そして皆から少し離れたところへと土方の腕を引いて行き、山崎はコソコソと話し掛ける。
山崎「良かったんですか?敵に塩を送るような真似して。」
土方「あぁん?何言ってんだ。もう敵じゃねぇだろ。」
真選組の新しい仲間だ。松本の事情や人となりはもう分かっている。何を警戒する必要があるのか。
そんな怪訝な表情で土方が眉根を寄せていると、山崎は更に小声で耳打ちした。
山崎「恋敵(恋のライバル)じゃないですか。葵咲ちゃん取られちゃいますよ。」
土方「!? ばっ!バカな事言ってんじゃねーよ!取られるも何も、俺のモンじゃねーっつってんだろ!!」
思わず大声で反論してしまった。その声を聞いた近藤は土方達に目を向けて反応する。
近藤「俺のモンって?何を取られるんだ?」
土方・山崎「!?」
ギクリ。
マズイ、変な誤解を与えてしまいそうだ。
どう交わそうかと頭を巡らせていると、葵咲が眉尻を下げて溜息を吐いた。