第77章 誰もに必要なのは、“帰る場所”。
その後の取り調べで鳥居と松島は、獅童の芝居小屋を放火した事も自白した。二人は獅童を違法薬物売買の主犯格として仕立て上げる為に華月楼へ引き込んだとの事。
芝居小屋に顔立ちの整ったイケメン絵師がいるとの噂を聞きつけた二人は、華月楼に引き込めば人気ナンバーワンを獲得するのは間違いないと踏んだのだ。
華月楼で獅童の奔放を野放しにしていたのも犯人に仕立て上げる為。自由奔放な人気ナンバーワンの花魁なら、陰に隠れて薬物を売り捌いていたとしても違和感はない。そして獅童から信頼を得る為に、芝居小屋の放火犯は菊之丞であるというガセネタを方々に拡散したという事実も発覚したのだった。
華月楼への潜入捜査の任務を無事に終えた葵咲は、普段どおりの仕事に戻っていた。
自室で溜まった会計の処理を行なっていると、そこへ近藤が訪れた。近藤は部屋の外から葵咲へ声を掛ける。
近藤「葵咲、ちょっといいか?」
葵咲「はい?」
葵咲は手を止め、障子を開けて顔を出す。近藤は自らについて来るよう促した。屯所の廊下を歩きながら、近藤は嬉しそうな笑顔を浮かべて語り始める。
近藤「実は今日から真選組に新しい仲間が増える事になってな。」
葵咲「へぇ、そうなんですか!」
その話を聞いて葵咲の顔もパッと明るくなる。
自分を呼びに来た時から終始嬉しそうな雰囲気を出していた近藤。今、そのワケが分かった。
新しい仲間が増える事は、真選組を束ねる局長の近藤にとってどれほど嬉しい事か。そんな近藤の喜びが葵咲にも伝染し、喜びが倍増した。葵咲は近藤に新メンバーについて尋ねる。
葵咲「どんな方です?何番隊の配属になるんですか?」
近藤「ああ、増えると言っても隊士じゃないんだ。」
葵咲「女中さんですか?勘定方とか?」
そうか、それで自分が呼ばれたのか。自分と同じ業務を行なう者に引継ぎや仕事の説明を行なって欲しいという事なのか、そんな風に考えた。
だが近藤は顔を綻ばせて首を横に振る。
近藤「俺達真選組は生傷の絶えない組織だろう?なのに今まで専属の医者はいなかった。いざという時に危険なんじゃねぇかって話になってな。それで今日から専属医を配属してもらえる事になったんだ。」
二人は屯所の玄関口へと辿り着く。葵咲がふと屯所の門のところに目をやると、そこにいたのは土方、総悟、山崎、そして…