第77章 誰もに必要なのは、“帰る場所”。
松本「フッ。さて、それはどうでしょう。」
獅童「あぁ?」
鼻で笑われる事に眉根を寄せる獅童。今度こそ嫌味を言われた。次は何を言われるのやら。そう身構えていると松本も獅童と同じ態度のドヤ顔で彼を見据えた。
松本「私はすぐにでも罪を償って出てくるつもりですから。」
獅童「!」
松本「私が戻るのが先か、貴方が芝居小屋を一流にするのが先か。競争といったところですね。」
ここにきてまさかの宣戦布告。先程のように調子を狂わされるような発言ではなく、今までの獅童が知っている高飛車な性格の“菊之丞”。
そんな普段どおりの彼の姿を見て少し安心したように獅童の顔は綻びる。
獅童「ケッ。相変わらず口の減らねぇ奴。受けてたってやるよ、その勝負。」
そう言って獅童はゆっくりと松本の傍へと歩み寄る。そして松本の前へと右手の拳を差し出した。それを見た松本は自らも右手に拳を作り、目の前に差し出された獅童の拳にコツンと拳を合わせたのだった。
そんな熱い友情の契りを見て、周りの花魁達は次々と声を上げる。
「俺も待ってます!」
「俺達はお二人とも応援してますから!」
「獅童さんが負けたら、この新生華月楼に戻ってきて下さいね!」
獅童「阿呆言うな。俺が負けるかよ!」
帰る場所がある事、自分を待っててくれる人がいる事。その有難さをしみじみと実感する。油断すれば涙が零れ出てしまいそうだ。その気持ちをぐっと堪えながら、松本は深く頭を下げた。
松本「皆さん、本当に有難うございました。」
暖かい空気に包まれながら、松本は獅童を始めとする花魁達に送り出された。