第77章 誰もに必要なのは、“帰る場所”。
まさかそんな言葉を受け取れると思っていなかった獅童は、調子が狂ったように頭をくしゃっと掻く。
そして少し照れくさそうにしながらも、今度は自分の意見を吐露した。
獅童「・・・・お前の周りは確かに利害を気にする(そういう)奴が多かったのかもしんねーけど全員じゃねーだろ。」
松本「え?」
獅童「オメーの面倒見の良いところに惹かれて傍にいた奴もいるんじゃねーの。」
松本「!」
決して世辞や馴れ合いの為の台詞ではない。獅童の率直な意見だった。
松本もまた、獅童からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった為、きょとんとした表情で獅童を見つめる。
そして獅童の意見に同調した周りの花魁や新造達も暖かい眼差しと熱い言葉を松本に送った。
「そうですよ。菊之丞さんはいつも自分の事なんて後回しで怪我人や病人を助けてくれてたじゃないですか。」
「俺は獅童さんより菊之丞さん派かな!」
獅童「てめぇ…。」
調子に乗って余計な事まで言ってしまった。発言した花魁はハッとなり、慌てて口を噤むが時既に遅し。その言葉はしっかりと獅童の耳にも届いていた。
獅童の中で松本への疑念や憎しみはもうないが、それとこれとは別の話。気に掛けてやっていたはずの花魁の裏切り文句に獅童は怒り、その花魁の胸倉を掴む。
獅童「もういっぺん言ってみやがれェェェェ!」
「ギャァァァァァ!殺されるゥゥゥ!」
松本「・・・・・。」
平穏な空気、その場の暖かいやり取りは松本の心に光を当てる。輪の外にいると思っていた自分が、しっかりとその中に入れてもらえていた。その事に心が洗われる気持ちになった。
松本がきゅっと下唇を噛んでいると、隣にいた葵咲が松本へと微笑みかける。