第77章 誰もに必要なのは、“帰る場所”。
「ずっと夢だったじゃないですか。芝居小屋を建て直す事。」
獅童「けど…。」
その先の言葉は言い出しづらいといった様子で口を噤んでしまう獅童。
それを見た花魁達はフッと笑みを零して獅童が抱える迷いを敢えて言葉にした。
「ずっと俺達が足枷になっていたんでしょう?」
獅童「!」
ドキリ。
どうやら図星の獅童。
“足枷”というのは語弊があるかもしれないが、獅童は残る者達の事が気掛かりだった。
華月楼に売られてきた自由や逃げ場、行き場のない花魁達。そんな彼らを放っておけず、率先して面倒を見ていたのは他でもない獅童だ。
獅童はこの華月楼で、他の花魁達の手本となるように振る舞い、良き兄貴分として希望の光であり続けた。そう、吉原が太陽、日輪と同じ存在だったのだ。
葵咲に語ったジーニーの願い、それは自分の事ではなく華月楼に囚われた花魁達の自由を願っての事。だからこそ、ここに残る者達を放ってはおけない気持ちに駆られていたのである。
だが、もうその必要は無いと残る者達は笑顔で獅童の背を押す。
「俺達の事はもう大丈夫ですから。」
獅童「・・・・・。」
そうは言われても素直に頷いて良いものか、まだ迷いがあった。自分の為に無理をしているのではないかと。
そんな獅童の心を読むかのように、一人の花魁が鼻を擦りながら笑い飛ばす。
「それに、獅童さんがいちゃ、いつまで経っても俺らが頂点になる日は来ねぇしな。」
獅童「お前ら…。」
そこまで言われてしまっては頷かざるをえない。獅童はふっきれたように笑顔を浮かべる。
そんな微笑ましい姿を見て、今度は松本が笑みを零した。
松本「フッ。」
獅童「なんだよ。今鼻で笑いやがったな。」
獅童は馬鹿にされているように感じたらしい。それがいつもの日常だったからだ。