第77章 誰もに必要なのは、“帰る場所”。
曇りなき眼で決意を語る花魁達。彼らの真っ直ぐな宣言に、山崎は面食らったように目を瞬かせた。
山崎「どうして…。君達をここに縛り付けるものはもうない。とどまらなきゃいけない理由も無いはずじゃ…。」
華月楼で働く者、いや、働かされている者の多くは止む終えない事情があって流れ着いた者が大多数。
鳳仙が夜王として君臨していた時のように、逃げ出そうとする者が処罰される事はないが、逃げ出す事で借金が返せなくなったり、その者の身内が危険に晒されたり。見えない鎖が花魁達を縛り付けていた。
だがそれが無くなった今、山崎には彼らが留まる理由を見出せなかったのだ。そんな山崎に花魁達がワケを話す。
「確かに俺らを縛る鎖や閉じ込める籠はないけど、ここでの生活、悪くは無かったかなって思うんで。」
「こんな俺達でも必要としてくれる人がいるし、少しでもこの吉原で働く人達の癒しになるならって。」
「だから俺らで一からやり直して、立て直したいと思います。」
当初は吉原で働く女達を癒す為にと建てられた華月楼。その趣旨が今は見当違いの方向へと進んでしまっている。彼らは初心を思い出してやり直したいと言うのだ。
悪い事ばかりではなかったと語る花魁や新造達の言葉を受け、近藤は安心したように優しい笑みを零す。
近藤「そうか。お前は?どうするんだ?」
獅童「!」
そういって今度は獅童の方へと目を向けた。獅童は悩むように俯いていたが、近藤から声を掛けられて顔を上げる。
獅童「俺は…。」
まだ答えが出ていない。どうするべきか、どう発言すべきか…。
言葉を詰まらせていると花魁仲間の一人が獅童の背中を押した。
「獅童さんは、行って下さい。」
獅童「!?」
その言葉に獅童は目を丸くして振り返る。振り返った先にいる花魁達はとても暖かい表情で獅童を見つめていた。