第76章 人に教える事は自分の勉強になる。
目の前の土方は喋っていない。でも確かに聞こえた。土方の声が。
葵咲が不思議な感覚に囚われていると、再び頭の中で土方の声が木霊する。
土方『…俺は、こんな事でお前を穢させたくはねぇ。』
葵咲「・・・・・。」
葵咲が押し黙る一方で土方はスイッチが入ってしまっている様子。葵咲の異変には気付かずにシャツを脱ぎ始めた。だが葵咲はそれに合わせるではなく、真顔に戻って土方をじっと見つめる。すると再び頭の中の土方が葵咲に語りかけた。
土方『これだけは約束しろ。危なくなったらすぐに逃げ出せ。いいな。』
目の前の土方が葵咲の制服を脱がせようと手を伸ばしたその時、本当の土方の声が葵咲に届いた。
葵咲は自らに触れようとする土方の手首をガッと掴む。
葵咲「…がう。」
土方「?」
葵咲「違う。土方君は…いや、土方さんはこんな事しない。」
土方「葵咲?何言って…。」
突然豹変する葵咲の態度に、土方は怪訝な顔を浮かべる。
次の瞬間、葵咲は土方を押しのけて叫んだ。
葵咲「土方さんは女の子を自分の欲望のままに押し倒したりなんかしない!私が好きなのは、土方君(あなた)じゃない!私が好きなのは…私は…!私…は・・・・。」
ドクン!
台詞の途中で葵咲の鼓動は大きく脈打つ。葵咲は突然の慣れない感覚に胸元を押さえて目を見開いた。
葵咲「!?」
…ピキン!
銀時に記憶が戻った時と同じだ。ガラスがひび割れて落ちるように、今見ている情景がガラガラと崩れ落ち、全ての記憶が葵咲の頭の中へと流れ込んだ。
葵咲「うっ。ああああああ!!」