第76章 人に教える事は自分の勉強になる。
その頃の現実世界。
土方は華音を追い詰めていた。華音は土方に斬られた胸元を手で押さえながら膝を付く。そんな華音に土方はゆっくりとにじり寄った。
土方「観念しろ。テメーはここで終わりだ。」
華音「チィッ、こんな汚れた花魁共(やつら)にやられるなんてね。」
吐き捨てるように言う華音。それを聞いた土方は至極不機嫌そうな顔で言葉を返す。
土方「汚ぇのはテメーのその腐った考え方だろうが。」
華音「アァ?」
土方「裏でコソコソ他人を動かして幕府(くに)に認められてねぇモン売ってるオメーらの方が、よっぽど汚ねぇって言ってんだよ。俺達や華月楼の花魁(ここのやつら)は胸張って堂々と自分の手と足で仕事してる。テメーなんかよりよっぽど美しいってんだ。」
真っ直ぐな瞳で華音を見据える土方。だが華音は納得する様子もなく、土方を睨み付けながらゆっくりと立ち上がった。
華音「フン、理解に苦しむね。まぁいいさ。今日のところはこれで引いてあげるよ。君達とはまた何処かで会うかもね。」
土方「!」
華音は懐から何か薬品の入った試験管のような瓶を取り出し、自らの足元付近に投げ付けた。瓶が割れたと同時に白い煙が立ち込める。土方は煙を吸わないようにと右手で口元を覆い、目を細めながら華音の姿を目で追おうとした。
土方「くっ!待ちやがれ!」
華音は一瞬で姿をくらませてしまう。彼の姿を探そうにも煙のせいで視界が悪く、その姿を見失ってしまった。
土方「…チィッ。」
舌打ちを零し、眉根を寄せる土方。華音の行方は気になるが、それよりも葵咲の事が心配だった。華音には深手を負わせた。今はこれ以上何もしないだろう。そう判断した土方はひとまず葵咲のもとへと駆け寄った。