第76章 人に教える事は自分の勉強になる。
華音はゆっくりと銀時に近付きながら静かに続ける。
華音「正直かなりムカついちゃった。お遊びはここまでだよ。それに、人質は君だけじゃない事、分かってるよね?」
銀時「っ!?てめぇ…!!」
そうだ、華月楼で華音と応戦していたのは自分一人ではない。葵咲が一緒にいた。“人質が銀時だけではない”。それが葵咲もこの世界に引きずりこまれている事を意味しているのはすぐに分かった。
銀時は下唇を噛んで拳をきゅっと握る。
華音「君のその魂、幻想世界の中(ここ)で潰してあげる。肉体は何かの新薬の実験体としてでも有効に使ってあげるから安心して。」
銀時「…くっ。」
手も足も出ない。出す事が出来ない。万事休すか…、そう思った次の瞬間、華音の身に異変が起きた。
…ドクン!
華音「っ!!」
目を見開いて両手を腹部に当てる華音。心なしか苦痛の表情を浮かべていた。
華音「っつ!…誰が…。」
銀時「?」
突然の状況に銀時は怪訝な顔を浮かべて華音の様子を見守る。すぐにでも攻撃を仕掛けたい気持ちは山々だが、下手に手を出して葵咲が危険に晒される事は避けたい。銀時が華音の様子を見張っていると、やがて華音は顔を上げ、冷や汗を垂らしながら銀時へと言葉を掛けた。
華音「君の事は一先ずお預けにしてやるよ。」
銀時「おい!待て!!」
その言葉だけを残して華音はすぐにその場から消え去った。何が起こっているのか状況を読めない銀時は、その場に呆然と立ち尽くすしかなかった。
銀時「…?」