第76章 人に教える事は自分の勉強になる。
一方、華音と交戦中の銀時は、かなりの苦戦を強いられていた。
華音「ハハッ!無駄無駄。蚊に刺されるよりも軽いね。」
(銀時:全然ダメージを受けてねぇ…!)
華音は防御する事も無く、両手を広げて真っ向から銀時の攻撃を受けていた。
あまりの手ごたえの無さに銀時は絶望を感じ始める。まるで暗闇の中ゴールの無いマラソンでもしているかのような。鳳仙と戦った時とはまた違った絶望感だった。
銀時は闇雲に仕掛けていた攻撃を一度やめ、体勢を立て直す為に後ろに飛び下がる。頬には一筋の冷や汗がつたっていた。
銀時「くそっ!」
華音「ここは僕の創り出した世界だ。そんなものが効くわけないだろ?」
銀時「っ。」
そう、創造主たる華音を相手にするという事は神と闘うに等しい行為。しかも銀時の得物はいつも愛用している木刀ではなく竹刀だ。稽古用の武器でダメージを与えられるはずもなかった。
銀時は下唇を噛んで華音を見据える。その時、華音の背後にある消火器が視界に入った。銀時は華音の隙を見て彼の脇へと転がり込み、素早く消火器を取って華音に向けて噴射した。
(※良い子も悪い子も真似しないでね!)
華音「!? ゴフッ、ゴホッ。」
突如視界を奪われて咳き込む華音。やっとの事で片目を開けたその時、銀時は持っていた消火器を華音へと投げ付けた。
銀時「うおらァァァァ!!」
華音「ぐッ!」
“窮鼠猫を噛む”とは、まさにこの事か。勢いで消火器もろとも壁へと叩きつけられる華音を見て、銀時は思わずガッツポーズを作った。
銀時「へへっ。」
華音「やってくれるね…。」
銀時「!」
面を上げる華音の瞳は冷徹さを帯びていた。それより何より、華音は全くのノーダメージな様子。多少なりとも何かしらのダメージを与えられたのではと期待しただけに、その絶望は大きかった。
華音にとって銀時の攻撃は赤子に叩かれたぐらいのものなのである。先程の攻撃はただ華音の怒りを買っただけだった。