第75章 大物が釣れたら後の魚への興味は一気に失せる。
銀八は3Zの教室から離れ、とぼとぼ歩きながら先程頭に浮かんだイメージについて考えていた。
銀八「なんだったんだ、さっきのイメージ…。」
思い出そうとしてみるも、やはり記憶には無い景色や情景。まるで自分の経験ではなく、テレビや映画のワンシーンを見たかのようだ。
ぼーっと考えながら歩いていると、体育館の傍を通りかかる。
「メーン!!」
ふと銀八が中に目を向けると剣道部の部活動が行なわれていた。試合の判定を行なっているのは松平だ。松平は野球部の顧問だが、この日は剣道部へと顔を出していた。
野球部は昨日練習試合が行なわれた事により、休みを取らせている。この日は剣道部の顧問が不在で代わりに顔を出す事になったらしい。
松平「勝負アリだ。」
この試合は圧倒的な力差があり、負けた方の竹刀は飛ばされ、銀八の足元へと転がってきた。銀八が竹刀へと視線を落とすと、試合を行なっていた生徒が銀八へと声を上げる。
「先生ー!悪いけどその竹刀こっちに投げてー!」
銀八「おー。」
屈んで竹刀の柄を握る銀八。
…ドクン…。
まただ。
心臓を大きく脈打つ感覚が銀八を襲う。
銀八「! ・・・・?」
思わず竹刀を握ったまま硬直してしまう。
急に動きを止めた銀八に、生徒は再び声を掛ける。
「先生ー、どうかしたんスかー?」
銀八「お、おう、悪ィ。」
頭をブルブルと振って意識を取り戻す。そして銀八は掴んだ竹刀を勢いよく生徒へと目掛けて放り投げた。
その時だ。
ドクン!
先程以上の激しさで心臓が脈打つ。
…ピキン!
ガラスがひび割れて落ちるように、今見ている情景がガラガラと崩れ落ちる。そして竹刀を投げた自分が、華月楼で葵咲へと刀を投げた自分と重なり、全ての記憶を取り戻した。
銀八「っ!!うあああぁぁぁぁぁ!!」