第75章 大物が釣れたら後の魚への興味は一気に失せる。
紆余曲折あったものの、気を取り直していざクレープ。
葵咲はチョコバナナを頼んだ。土方は勿論、お目当てのマヨスペシャル。マヨスペシャルはレタス、ハム、卵の具材にふんだんにマヨネーズが掛けられた、マヨラーにはたまらない一品。
二人は窓際のカウンター席に腰掛け、注文したクレープを頬張った。
葵咲「美味しいー♡」
口の中に広がるバナナとチョコの程よい甘さ。葵咲は大満足といった表情だ。一方土方は、しかめっ面を浮かべながらクレープを頬張っている。
土方「まぁまぁだな。」
そんな辛口評価をするも、食はガンドコ進んでいる。どうやらとても気に入ったようだ。
夢中でクレープを頬張る土方を見て、葵咲は思わず吹き出した。
葵咲「プッ。ホントはめちゃくちゃ気に入ってんじゃん。」
土方「うるせー。」
図星の土方は口をとがらせながら窓の外を眺める。素直に認めない土方の態度は可愛いという表現以外見つからない。葵咲は食べるのを止めてクスクス笑う。そんな葵咲の顔をチラリと横目で見て、土方はボソリと呟いた。
土方「…言っとくが、他の奴と来てもこんな美味いと感じねーからな。」
葵咲「え?」
最初は何を意味しているのか分からなかった。だがすぐにその意味に気付く。
“葵咲と一緒に来たから何倍も美味しく感じる”。
その意味が分かった葵咲は赤面し、持っていたクレープに視線を落として言葉を押し出した。
葵咲「っ!それは…私もだよ。」
初々しい青春の甘酸っぱさ。二人は自分で放った言葉に急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして俯いたり、視線を窓の外に向けたり。
二人の間に沈黙が落ちてしまう。