第75章 大物が釣れたら後の魚への興味は一気に失せる。
それから十分も経たないうちに、その場に近藤が現れた。
近藤「お妙さァァァん!!貴女を待たせまいと、光の速度で参りましたァァァ!何処ですかァァァ!?」
クレープ屋の前で妙を探しながら叫ぶ近藤。勿論、近藤はこの場を教師が三人張っている事等知らない。松平、服部、坂本の三人が近藤の背後へと忍び寄る。そして服部が近藤の肩へとポンと手を置いた。
近藤「お妙さ…!・・・・え?」
期待を胸に振り返る近藤。だがその気持ちは瞬時に天国から地獄へ。今自分が置かれている状況を悟った近藤は顔面蒼白になる。服部と坂本の後ろで、松平が右手に持っていた竹刀を自らの左手にパシッパシッと叩きつけて威圧的な態度を取っていた。その面構えはとてもじゃないが教師とは思えない。何処かの組の者だ。
松平「近藤ゥゥゥ。お前、確か風紀委員だったよなァ?」
近藤「いや、あの、そのぉ…。」
恐怖で縮こまる近藤。良い弁解文句が見つからない。言葉を詰まらせていると、松平は学校の方角へ近藤の首根っこを掴んで歩き出した。
松平「ちょっと、面ァ貸せやァ。」
近藤「まっ、待って!ちょ!ああああ"あ"あ"あ"!!」
その場に木霊する断末魔。服部と坂本は松平達の去った方へと目を向ける。そして坂本が大きな笑い声を上げた。
坂本「あははっ。思わぬ大物が釣れたのぅ。大収穫じゃき、今日はこれでお開きにするか!」
服部「そうだな。俺ァ帰って読まなきゃならねぇ本もあるし。」
坂本「お前(おまん)の読書はどうせジャンプぜよ。」
服部「違ぇーよ。(ジャンプの)歴史書だ。」
彼らのやり取りを物陰から見届けていた土方と葵咲。土方は四人が完全にその場から離れるのを確認し、ひょっこりと顔を出した。
土方「…よし。行ったな。」
葵咲「大丈夫かな…?」
近藤の安否が気になる。葵咲が近藤達が立ち去った方向へと心配そうな視線を向けるのに対し、土方はあっけらかんとした態度でクレープ屋へと歩き出した。
土方「俺ァ別に嘘吐いちゃいねぇ。『あの女(きさ)がクレープ屋(の前)で(入れずに)待ってる。』つっただけだ。奴の死を無駄にするな。行くぞ。」
葵咲「・・・・・。」
“親友”とは一体…。世の中の世知辛さを垣間見た気がした。