第75章 大物が釣れたら後の魚への興味は一気に失せる。
その時、葵咲の目には土方の姿がダブって見えた。目に写る景色は縁日の風景。土方はグレーの浴衣を着て葵咲に手を差し伸べる。
見た事ないのに見た事があるような感覚。デジャブのような情景に、葵咲は一瞬時を止めてしまう。
(葵咲:こんな事、前にもあったような…。)
土方「? どうした?」
葵咲「え?あ、ううん!なんでもない!ありがと。」
声を掛けられて我に返る葵咲。慌てて土方の手を取り、その場に立ち上がった。土方はそのまま葵咲の手を握って歩き出す。
葵咲「あの、もう大丈夫だよ。」
今度はきちんと前を向いて歩く。もうぶつからない、転ばない。そう言おうとする葵咲だが、それより先に少し苛立った様子で土方が言葉を返した。
土方「…そうじゃねぇだろ。」
葵咲「あ…。うん。」
そうだ。二人は恋人同士。手を繋いで当たり前なのだ。その事に気付いた葵咲はポッと頬を赤らめた。そんな葵咲の様子を見て土方もまた照れたように頬を染める。二人は手を恋人繋ぎへと繋ぎ直し、並んで歩き出した。
(葵咲:気のせい、だよね。今浮かんだ情景…。二人で浴衣着て出掛けた事なんてないし、それに土方君の手を握るのは今が初めてだもの。)
先程頭に過ぎった情景が気になるも、葵咲は首を横に振ってその考えを頭から払った。