第75章 大物が釣れたら後の魚への興味は一気に失せる。
一方、校門から姿を消した葵咲は土方と一緒に下校路を歩いていた。
先程の待ち合わせ相手は土方。休み時間に交わした約束どおり、放課後デートだ。土方は頭を掻きながら申し訳なさそうな顔を浮かべる。
土方「悪ィな、俺が言い出したのに遅れちまって。」
葵咲「ううん、全然待ってないよ。」
葵咲は隣を歩く土方に笑顔を向ける。その時、前から歩いてきた男性と肩がぶつかってしまった。男性は勢い良くぶつかってきた為、葵咲は体勢を崩して尻餅をついてしまう。
葵咲「いたた…。」
「痛ぇな。前見て歩けよ!」
歩いている道は決して狭くはなく、十分避けられる道幅だ。明らかにわざとぶつかってきた当たり屋である。
男性の年齢は見たところ大学生ぐらいだろうか。高校生のカップルを見てやっかんだのだろう。その事に気付いた土方は立ち去ろうとする男性の肩を掴んで凄みをきかせた。
土方「あぁん?今テメーからぶつかってきただろうが。」
「す、すんませんでしたァァァ!!さ、お手を…」
高校生とは思えない鬼の形相に、男性は顔面蒼白だ。反射的に背筋を伸ばし、深々と頭を下げて謝罪を述べる。そして頭を上げて葵咲の前にさっと手を出した。葵咲はその手を取ろうとするが、土方がそれを払いのける。
土方「いい。触るな。」
「ホンットすんませんでしたァァァ!!」
再び睨まれ、男性はこれ以上身が持たないといった様子でその場から即座に逃げ出して行った。あまりの展開の速さに葵咲は地面に腰を落としたまま呆然となる。
土方は男性が立ち去ったのを見届け、葵咲へと振り返って手を差し伸べた。
土方「大丈夫か?」
葵咲「…!」