第75章 大物が釣れたら後の魚への興味は一気に失せる。
同日放課後。
授業、HR、その他雑務を終えて職員室へと足を向ける銀八は、廊下を歩きがら悩むように唸っていた。
銀八「なーんか忘れてる気がするんだよな。…ん?」
ふと窓の外へと目を向けると、校門のところに立っている葵咲の姿が見えた。葵咲は校舎の入口へと目を向けている。誰かを待っている様子だ。銀八は葵咲の姿を見てふと考える。
(銀八:アイツと話したら何か思い出せそうな…。)
確証はない。だが、何となくそんな気がした。葵咲が誰かを待っている間に少しだけでも話が出来れば。そう思い、葵咲のいる方へと向かおうとしたその時、背後から声を掛けられた。
「先生!」
振り返ると、そこには丸眼鏡を掛けて何故かちくわを手にした神楽と、リコーダーを手に持った新八の姿があった。
銀八「お?なんだ?」
新八「今度の学祭についてなんですけど、良いですか?」
銀八「学祭?」
聞き慣れないフレーズに、片眉を上げて思わず鸚鵡返し。銀八はただ記憶に無いだけなのだが、新八と神楽の目にはやる気が無いように写った。二人は不満そうな顔を浮かべながら口を尖らせる。
新八「先生、しっかりして下さいよ。」
神楽「忘れたアルか?クラス全員で『ケツ毛THEシャイ』を演奏する事になったネ。私のリコーダー、壊れて『ファ』の音しか出なくなったけど。」
そう言って神楽は、ちくわをリコーダーを吹くような仕草で口元に添えた。それを見た新八は呆れた表情ですぐにツッコむ。
新八「神楽ちゃん、だからそソレちくわだって。本番までにちゃんと準備しておきなよ。」
銀八「そもそもそんな曲あんの?」
重ねて銀八がツッコミを入れるも、そのやり取りは空(くう)へと消えてしまう。
話が途切れたところで、銀八は思い出したように窓の外に目をやった。先程葵咲が立っていた場所を見ると、そこにはもう葵咲の姿はなかった。
銀八「あれ?」
新八「先生?どうかしました?」
銀八「あー…いや。」
新八達を放って葵咲を追いかけるわけにもいかない。というより、そこまでする程でもない。
銀八は『まぁ明日でいっか。』、そう思い、新八達と学祭の打ち合わせに入った。