第74章 夢は起きた瞬間に忘れてしまう事が多い。
一方、華音が見下ろしている事等気付いていない葵咲は、土方とのやり取りで精一杯の様子。顔を真っ赤にしながら慌てる葵咲に、土方は言葉を失っていた。
土方「~~~~~。」
葵咲「あの!ご、ごめんなさい!」
ガーン!
深々と頭を下げる葵咲に、土方はショックを隠せない。
そりゃそうだ。土方の話では一週間程前からお付き合いの始まった二人。その相手がその事をすっかり忘れ、しかも“ゴメンナサイ”では、ぬか喜びも甚だしい状況だ。胴上げされてそのまま受け止められずに地面に叩きつけられたような状態とも言えるだろう。
顔面蒼白で言葉を失う土方に気付き、葵咲は頭を上げて慌てて言葉を付け加える。
葵咲「あ、いや、その!断る意味の『ごめん』じゃなくて!」
土方「!」
葵咲「何かよく分かんないけど、今ちょっと頭が混乱してて、その、彼女とかそういう実感が全然なくて…。」
そう言って葵咲は照れるように俯く。その態度を見て土方も落ち着きを取り戻した様子だ。
土方は考え込むように葵咲の顔をじっと眺めた。
(葵咲:でも、そうだ。私、確かに土方君の事…。)