第74章 夢は起きた瞬間に忘れてしまう事が多い。
次第に鮮明になってゆく記憶。
時は遡り今から一週間前の事だ。夕方十七時半頃。土方は校門を出て通学路を歩いていた。
土方は風紀委員。委員長の近藤は頼りにならず、ほぼほぼ実務をこなしているのは副委員長の土方だ。
この日も色々な仕事をこなしていた為、帰りが遅くなっていた。
土方がゆっくりと歩いていると、背後から声を掛けられる。
葵咲「あれ?土方君も今帰り?」
土方「! あ、ああ。」
振り返った先にいたのは葵咲だった。葵咲はパタパタと土方の傍へと駆け寄り、隣を歩く。
葵咲「風紀委員の仕事?遅くまで大変だね。」
土方「お前は?こんな遅くまで何してたんだよ?」
葵咲は特に委員会等には所属していないはず。下校時刻が遅くなる理由に見当がつかない土方は、その疑問をストレートに口に出した。尋ねられた葵咲は頬をポリポリと掻きながら答える。
葵咲「私はちょっと松平先生に用事頼まれて。」
土方「用事?」
葵咲「体育倉庫の片付け手伝って欲しいって。」
土方「…大丈夫か?」
放課後、人気のない体育倉庫という密室空間への個人的な呼び出し。相手が女性教諭ならまだしも、あの松平だ。その危険な香りに土方は眉根を寄せた。
だが葵咲はそんな土方の心配には気付いておらず、違う意味と捉えて見当違いの返事を返す。
葵咲「大丈夫だよ。大した量じゃなかったし。」
土方「いや、そうじゃなくてセクハラ的な意味で。つーか大した量じゃねぇのに何でこんな遅くなんの?」
明らかにおかしい。松平の下心が見え隠れする。その事を追求する為に土方は質問を重ねた。だが葵咲はその意味には一向に気付かず、笑顔を返した。
葵咲「先生と話し込んでたら結構時間経ってたみたいで。疲れ取る為にストレッチしてあげるって言われたんだけど遅くなったから帰りますって出てきちゃった。」
土方「それ完全にアウトだろォォォォォ!!」