第74章 夢は起きた瞬間に忘れてしまう事が多い。
いつになく低いトーンで話す土方。しかも想定外の台詞に、葵咲はパッと顔を上げて土方の顔を見やる。目を瞬かせている葵咲に対し、土方は至って真剣な表情だ。
土方「いや、もうアイツとは関わるな。」
葵咲「何?どしたの?」
土方「お前がそんな風にアイツと親しげにするから、お前とアイツが幼馴染だったっつー噂が流れてる。それが理由でお前がアイツに贔屓されてるってな。」
葵咲「えっ?」
想定していなかった話の流れに、葵咲は目を瞬かせる。そんな葵咲には構わず、土方は眉根を寄せながら続けた。
土方「“贔屓”はまだ可愛いもんだ。アイツとお前が教師と生徒の身でありながら肉体関係を持ってんじゃねーかって言うヤツもいやがる。」
葵咲「なっ!はぁ!?そんなん全然ないよ!あるわけないじゃん!!」
まさかそんな話が出回っているなんて欠片も想像していなかった。根も葉もない事実が出回っているだけに怒りさえ込み上げてくる。
目に見えて分かる葵咲の怒りに、土方は慌てて宥めるように言葉を返した。
土方「分ーってるよ。お前がそんな女じゃねーって事は。…けど、火のないところに煙はっつーし…。」
最後の方は少し言いづらそうに口をもごもごさせながらの発言。それを見た葵咲は更に苛立った様子で土方を睨みつける。
葵咲「それ、疑ってるって事だよね。」
土方「俺じゃねーよ!他の奴らがだ!噂っつーのはどんどん膨れあがってくもんなんだよ。」
この意見には葵咲も反論は出来ない。小さな誤解から噂が一人歩きしてしまうのはよくある事だ。