第74章 夢は起きた瞬間に忘れてしまう事が多い。
休み時間に入った教室内はざわめいていた。その騒ぎの元は妙の友達の雑兵、いや死兵軍団。もとい、ブス沢、ブス村、ブス寺、ブス川、ブス森、ブス島の女豹軍団だ。人一倍色恋に興味があるくせに、人一倍色恋に縁がない。コミック16巻139訓、九兵衛の合コン話で登場した、おブス集団である。
「ねぇねぇ、さっきの寝言、聞いたー?」
「聞いた聞いた!銀ちゃんって…。」
「それってやっぱり坂田先生の事なんじゃん?」
「えーっ?じゃああの噂はホントって事?先生と市村さんが…。」
話に火がつきそうになったその時、一人の女豹が話に割って入った。その女豹とは、合コンの時に銀時に好意を抱いていたぽっちゃり系みつあみ女子である。
「アンタ達やめなさいよ。変な噂立てたら先生が可哀想じゃん。」
「ちょっとぉ、先生の事好きだからって先生庇うような発言やめてよ~。」
「そっ、そんなんじゃ…ないわよ!」
この世界でも気持ちの根本は変わらないらしい。みつあみの女豹が銀時を庇う言動をした事で、話は違う方向へと炎上し始めた。
「あーっ。顔赤くなってるー。」
からかわれて顔を真っ赤にする銀時好きの女豹。自らに向けられる矛先を変える為、彼女は慌てて話を別の方向へと向けた。
「そ、それに市村さんにはホラ…いるじゃん!」
自分が噂の渦中にいるとは知りもしない葵咲。葵咲は机に頬杖をついて考え込んでいた。
葵咲「・・・・・。」
(葵咲:私、本当にここの生徒だっけ?いや、生徒なんだけど、何かもっと…重要な事を忘れてるような…。)
思い出そうとすればする程、答えが遠くなる感覚に陥っていく。
答えの出ない問題を解くように一人で唸っていると、土方に声を掛けられた。
土方「ちょっといいか?」
葵咲「え?」
土方は両手をズボンのポケットに入れたまま、顎で教室の外へ出るようクイッと仕草で促す。葵咲はきょとんとしながらも、土方の指示に従って立ち上がった。
それを近くで見ていた女豹軍団は当然の如く、騒ぎ立てる。
「修羅場よ!修羅場!」
「キャァァァァァーーーーッ!!」
葵咲「?」
土方「・・・・・。」
何故悲鳴を上げられているのか分かっていない様子の葵咲。土方はその悲鳴の理由を知っているかのように、面白くなさそうな顔を浮かべながら教室を出た。