第74章 夢は起きた瞬間に忘れてしまう事が多い。
場所は変わって保健室。
保健室のベッドで男が寝ていた。男は白衣を身に纏ったまま横になり、顔に教科書を乗せて胸元で手を組んで眠っている。どうやら保険医は不在の様子だ。
静かな保健室でスヤスヤと気持ち良さそうに眠る男。だがそんな睡眠を妨げる音が近付いてくる。廊下をカツカツと突き進むハイヒールの音が響いていた。
足音の主は保健室の前で立ち止まり、勢い良く扉を開ける。そしてツカツカと中へ入り、ベッドのカーテンをシャッと開けた。
月詠「おい。いい加減起きろ。」
そう言って男の顔に被せてあった教科書を剥ぎ取るのは月詠だ。突然光が差し込んだ事で薄目を開ける男…いや、銀時だった。
銀時「…ん?」
月詠「そろそろ準備せんと次の授業に遅れるぞ。3Zの次の授業は国語じゃろう?」
銀時「? 授業?」
夢でも見ているのだろうか。いつもと雰囲気の違う月詠に銀時は目を細める。月詠はミニスカートのスーツに白衣を羽織っていた。しかも効きなれないワードに頭が追いつかない。
銀時はぼーっと月詠の顔を見つめていた。
月詠「寝ぼけておるな。しかりせぬか、銀八。」
ツッコミどころ満載の情景に何からツッコんで良いのやら。とりあえず銀時はムクッと上体を起こし、思いつくままにツッコミを入れた。
銀時「あのーすみません。授業って意味分かんねーし、そもそも名前間違ってんですけど。銀時なんですけど。ん?…銀時?銀時って、誰だ?」
自分で発言したにも関わらず、その発言が分からなくなる。銀時は自らの眉間に手を当てて頭を抱えた。月詠はフゥと溜息を吐いて両手を腰に当てる。