第73章 記憶を消しても罪は消えない。
そして葵咲は着物の裾に付いている埃を払いながら、ゆっくりその場に立ち上がる。
葵咲「じゃあとりあえずもう一度天井裏に行ってみよう。ところで獅童さんは?」
銀時の事だから獅童を見捨てたりするはずが無い事は分かっているが、行方と安否が気になる。そんな葵咲の不安を拭うように銀時は答える。
銀時「心配すんな、あいつなら無事だ。安全な場所に隠れてるってよ。」
菊之丞「獅童の隠れていそうな場所には見当が付きます。私が様子を見てきましょう。」
菊之丞を一人にするのは危険な気もするが、華月楼内は真選組の突入でほぼ沈静化されている。自分達と宇宙海賊を追う方が危険を孕むだろう。それに獅童は毒矢の攻撃を受けた。菊之丞に早く診てもらった方が良い。そう考えた葵咲は、菊之丞からの申し出を受け入れる事にした。
葵咲「じゃあお願い出来ますか?彼も怪我してるんです。」
菊之丞「分かりました。葵咲さん、くれぐれも無茶はしないで下さいね。」
葵咲「はい、有難うございます。菊之丞さんも。」
互いの武運を祈りながら一時の別れを告げようとする葵咲。だがそれに対して菊之丞は首を横に振った。
菊之丞「やめて下さい。」
葵咲「え?」
何か気に障る事でも言ってしまっただろうか。自分の台詞を振り返ってみるが思い当たる節は無い。葵咲がきょとんとしていると、菊之丞は顔を上げて葵咲に真剣な瞳と心からの微笑を掲げた。
菊之丞「それは私の源氏名。私の本当の名は、短英。松本短英(まつもとたんえい)です。」
葵咲「! 有難う、短英さん!」
やっと本当の彼に出逢えた気がする。本名を教えて貰えた事、今までで最高の暖かい微笑を向けてもらえた事で、葵咲の気持ちも温もりに包まれた。
葵咲「戻った時に怪我してたら、また手当てして下さいね。」
松本「勿論です。それではご武運を。」
銀時と葵咲は菊之丞に獅童の救護を託し、天井裏に上がった。