第73章 記憶を消しても罪は消えない。
葵咲「あ、この人は菊之丞さん。」
銀時「! アンタが…。」
ようやく頭が冴えてきた。銀時はこの場の風景を見て、少し前に自分に起きた出来事と今の状況とを把握する。
菊之丞「その様子だと、私の事も聞いたみたいですね。」
銀時「ああ。獅童って奴からな。」
獅童がどんな風に話したか分からない。先程の獅童の様子からすると菊之丞の事を悪く言ったとは思えないが、念の為に葵咲は説明を加えておく。
葵咲「大丈夫だよ。今は私達の味方だから。」
銀時は見定めるように菊之丞を見据える。葵咲からの言葉のパスを受け取り、今度は菊之丞が自らを語った。
菊之丞「私は葵咲さんと接して思ったんです。私も…光の当たる場所に行きたい、そちら側の人間になりたいと…。闇の中(こちらがわ)で流されるように卑屈に生きるのではなく、言いたい事を正直に言い、胸を張って生きていきたい。…初対面の人間にこんな事を言われても、信じられないかもしれませんが…。」
強い意志の宿った瞳を見れば分かる。その熱い想いは確かに銀時の胸へと届いた。
銀時はフッと笑みを零し、静かに頷く。
銀時「いや、アンタのその目、信じるぜ。」
その言葉に救われるように菊之丞の顔も綻んだ。その時、突然銀時の左足首に鈍い痛みが走った。ズキン!銀時は痛む箇所に手を添えながら呻き声を上げる。
銀時「ぐっ!」
葵咲「銀ちゃん!」
菊之丞は慌てて靴を脱がせ、裾を捲り上げる。
菊之丞「これは…!」
足首に血だまりが出来て酷く腫れている。膿が溜まっているようだ。菊之丞は静かに頷き、葵咲の前に静かに右手を出した。
菊之丞「…メス。」
葵咲「御意。」
銀時「ここでいきなり手術!?」
医者もののドラマとかでよく見る光景とよく聞く台詞。まさかの展開に銀時は思わず菊之丞を二度見した。菊之丞は至って冷静な表情で銀時に視線を合わせながら、某高視聴率ドラマの名台詞を放つ。