第8章 出かける時はちゃんとその事伝えなきゃダメ。
その日の夕方。土方は屯所内で葵咲の姿を探すが、やはり見あたらない。時計を見ればもうすぐ夕飯の時刻だ。いつもなら夕飯の支度の為にとっくに台所に入っている頃だ。だがその日は台所に行っても葵咲の姿はなかった。葵咲が屯所の玄関に護り屋の看板を出していたのが昼頃。少なくとも五時間以上は経過している。なにやら様子がおかしい。色々と行先の心当たりを考えてみるが、正直、葵咲が真選組に訪れてまだ日は浅い。葵咲の行く宛ても交流関係も詳しくは知らず、検討もつかなかった。
土方が立ち止まって考えを巡らせていると、山崎が声を掛けてきた。
山崎「副長、どうしたんです?難しい顔して。」
土方は声を掛けられて初めて山崎の存在に気付いた。それは単に山崎が地味だからではなく、それだけ深く考え込んでいたということだ。
土方「山崎、市村のヤツ何処行ったか知らねぇか?」
以前葵咲を探していた時は買出しに行く旨を山崎に伝えていた。もしかしたら今回も山崎は何か聞いているかもしれないと思い、問いかけてみる土方。
山崎「いえ、特に聞いてないですけど…。」
だが今回は当てが外れたようだ。山崎も葵咲の行方は知らず、心当たりもないようだった。土方は「そうか。」と短く返し、その場を立ち去ろうとしたが、それを止めるように山崎が話を続けた。
山崎「副長、いつも葵咲ちゃんのこと探してますね。何かあるんですか~?」
そう言った山崎の表情はニヤニヤと笑みが零れていて、土方をからかう感じの嫌な顔つきだった。そんな山崎の顔を見て苛立つ土方。目を瞑って耳の穴をかいた後、山崎を睨みつけながら言った。
土方「ったく、どいつもこいつも…。お前はアイツがここに来た経緯、知らねぇワケじゃねぇだろ。」
山崎「!」