第73章 記憶を消しても罪は消えない。
菊之丞「それは違います。副作用の危険もそうですが、そもそも記憶を消す事自体が間違いなのだと気付いたんです。人は失敗を重ねて成長する生き物です。その失敗があったからこそ今の自分がある。だから否定してはいけない。否定すれば今の自分自身を否定する事に繋がってしまう…。この罪を“失敗”の一言で片付けるつもりはありませんが、その罪や罪に苛まれる意識、記憶。全てを含めて今の私です。嫌だから、間違っていたからと消して良いものではない。」
葵咲「・・・・・。」
菊之丞の真っ直ぐな意見を聞いて葵咲はきゅっと拳を握る。刺さるような言葉に胸がチクチクと痛んだ。
菊之丞は覚悟を決めたような瞳で、今度は土方の方へと目を向けた。
菊之丞「私は逃げるつもりはありません。ですが、信用出来ないと言われるのであれば…」
葵咲への同行を諦めるしかない。菊之丞がそう最後まで言い終わる前に、土方が言葉を挟んだ。
土方「俺達ァ芋侍だ。医学や薬学の話は分からねぇ。応急処置なんざ専門外だ。それを出来る奴がいる、頼もしい限りじゃねぇか。」
菊之丞「!」
近藤「葵咲と同行し、万事屋を見つけた後は他の怪我人の救助に向かってもらえるか?お前の罪の事は後で考えりゃいい。今最優先すべきは助けられる命を救う事だ。」
菊之丞「…はい。有難うございます…!」
出逢ったばかりの、しかも咎人の自分を信じて貰える事が素直に嬉しい。菊之丞は土方や近藤に深々と頭を下げた。菊之丞の誠意を見て、近藤は周りの隊士達に指示を出す。
近藤「よし!じゃあ一番隊と二番隊も手分けして万事屋を探せ!他はここで待機!」
「御意ィィィィ!!」
菊之丞と共に部屋から出て行こうとする葵咲に土方は優しい言葉を掛ける。
土方「無茶だけはするなよ。」
葵咲「勿論!」
葵咲と菊之丞は他の真選組隊士達とは別れて別の方向へと向かい、銀時の捜索にあたった。