第73章 記憶を消しても罪は消えない。
真剣に語られる菊之丞の言葉に嘘偽りは感じられない。
だがここで一つの矛盾が浮かんだ。それに気付いた近藤は、腕組みしながら眉根を寄せ、菊之丞に問いかける。
近藤「そのつもりで手を引いたのに、何故今ここにいる?」
華月楼ではその違法薬物が出回っていた。違法薬物から手を引いたはずの人間が販売現場にいる事に違和感を感じる。
それについて菊之丞は首を横に振って言った。
菊之丞「私は自首する為に自ら奉行所へと出頭しました。ですが、薬の話を聞いた鳥居は…。」
土方「華月楼(ここ)にお前を送り込み、悪事に加担させたってわけだな。」
ある程度の調べはついていた。菊之丞が奉行所へと足を運んでいた事は事前の調べで分かっていたのだが、理由については鳥居が揉み消していた為、土方と山崎の調査では事実が見えていなかった。
だが松島の告発と菊之丞の自白でやっと全てが繋がったのだった。
鳥居「フン、何を言う。我々はお前の罪を償わせてやるつもりで華月楼(ここ)に送り込んだんだ。お前自身も今言ったろう。これが実現すれば人の為になると。私もそう思ったから製薬を続けるよう促したんだ。薬を完成させる事こそが本当の償いに繋がるのだ。」
転んでもただでは起きない精神、そう言えば聞こえは良いが、鳥居は自らの保身の為だけに菊之丞の発言を利用しようとする。
それに対して菊之丞は真っ直ぐ鳥居を見据えて言葉を紡ぐ。