第72章 誰もが心にラフテルを描いている。
その話を聞いた山崎は優しい笑みを零す。
山崎「そうですか。」
山崎は菊之丞に手を差し伸べて彼が立ち上がるのに手を貸した。土方は室内にいる侍達を倒した事を確認して再び刀を鞘へと納める。
土方「これで大方片付いたな。」
“大方”と言ったのは、片付けたのは室内だけである事を示す。華月楼内には松島の息の掛かった者達がまだ潜伏しているだろう。土方はひとまず、松島と鳥居を拘束するよう、傍にいた隊士に指示を出す。その時、総悟が葵咲の傍へと駆け寄った。
総悟「葵咲!大丈夫ですかぃ!?怪我は?」
葵咲「うん、何ともないよ。有難う。」
総悟「いくらなんでも無茶しすぎですぜぃ!敵のアジトが分かったからって先に単身、しかも丸腰で乗り込むなんて…!」
葵咲「そ、そうだよね。ごめんなさい。」
隊内でも極秘任務だった潜入捜査。当然、総悟もその任務については知らない。特に総悟にはバレるわけにはいかなかった。客として遊郭に潜り込んでいたなんて知られれば、嫉妬でこの遊郭中の花魁を斬り殺し兼ねない。それが分かっていた葵咲は誤魔化すように慌てて話を逸らす。
葵咲「あっ、そうだ!ねぇ、ここに来る途中で銀ちゃんに会わなかった?」
総悟「旦那?いや、見掛けてないですぜぃ。」
出てくるはずのない登場人物の名前を聞いて総悟は目を瞬かせる。そしてそれを聞いていた土方は聞きたくない名前を聞いたと言わんばかりに顔を歪ませた。
土方「なんであのヤローが出てくんだよ。」
葵咲「助けてもらったから。」
近藤や山崎、他の隊士達にも尋ねてみるが、皆首を横に振るばかり。獅童を連れて華月楼(ここ)を出るのと入れ違いになった可能性は大いにあるが、仮にそうだとしても銀時の性格上、そのまま帰るとは思えない。戻ってくるならもうここに来ていても良い頃合だろう。何か嫌な予感がする。胸がざわついた葵咲は銀時を探しに行く事にした。
葵咲「…私、ちょっと見てくる!」
葵咲が部屋から出ようとしたその時、その背に呼び掛ける者がいた。