第72章 誰もが心にラフテルを描いている。
葵咲が松島の側近に捕まり、縄抜けしていた際にコッソリ示し合わせた計画だった。
葵咲は松島に聞かれないようにと菊之丞に耳打ちする。
葵咲「詳しい話は後で。とりあえずこれからの私の会話には適当に合わせて下さい。」
菊之丞「?」
葵咲「それから、私が『走って』と叫んだら、入口の扉まで全速力で真っ直ぐ走って下さい。良いですか、何があっても振り返らないで。そのまま走り抜けて下さいね。」
菊之丞「何を…。」
唐突な提案に目を瞬かせる菊之丞。状況が飲み込めずにきょとんとしていると、葵咲は力強い笑顔を見せた。
葵咲「大丈夫です、心配しないで下さい。貴方の事は必ず、私が護り抜きますから。私の事、信じてもらえますか?」
この時は、何を言っているのか意味が分からなかった。耳を傾けてはいたが頭には入らない、そんな状態だった。
だが、先程葵咲に『走って』と言われた時に全てがしっくりきたのだ。無意識のうちに全ての状況を飲み込み、気が付けば全速力で掛けていた。