第72章 誰もが心にラフテルを描いている。
鳥居『菊之丞が犯人、そしてお嬢さんが常客、そういうシナリオじゃなきゃ困るんだ。』
松島『ああ、薬の件はご心配なく。今から彼女に服用させますので。』
先程の松島と鳥居の会話だ。録音していたのは勿論葵咲。葵咲が捕まった後ゴソゴソしていたのは縄抜けと会話の録音の為だったのだ。
突入前に手元に仕込んでいた刃物で素早く縄を切り、袖の下に隠し持っていた音声レコーダーで会話を録音していた。潜入捜査が始めからバレていた事には少々驚かされたが、今となってはどうでも良い事だった。
部屋へと突入する前に届いたメール、それは土方からのメールだった。メールには違法薬物売買、および獅童の芝居小屋の放火どちらも鳥居と松島が関与している証拠を掴んだと記されていた。そのメールを読んだ葵咲は、真選組の華月楼への突入依頼を返信した。先程の会話は突入までの単なる時間稼ぎに過ぎない。あわよくば自白を引き出せないかと録音したのだが、それが上手くいっただけの事だ。
松島「なっ!?」
流される先程の会話に、言葉を失う松島達。録音内容を聞きながら、土方は一度刀を鞘へと納めて煙草に火を点ける。
土方「…で?何処の誰の部下が薬中だって?」
近藤「真選組、マヨネーズ副長の部下でーす!」
総悟「近藤さん、ソレを言うなら犬の餌副長でさぁ。」
土方「おめーらァァァ!!」
格好良くキメたつもりが小バカにされる事に憤りを感じる土方。そんな土方の神経を更に逆撫でするように、山崎がちゃちゃを入れる。
山崎「真選組、鬼の副長の想い人でーす…。ププ。」
土方「山崎ィィィ!オメーはワケ分かんねー事言ってんじゃねェェェェェ!!」
盛大にボコられる。だがそんな土方のパワハラ現場など松島と鳥居の視界には入っていない。自分の事で精一杯だった。
鳥居は葵咲の方を慌てて振り返りながら叫ぶ。
鳥居「まさか貴様っ!」
葵咲は自分の縄を切った刃物で菊之丞を縛っている縄も切り、ゆっくりと立ち上った。そして音声レコーダーを顔の横に掲げながら、にこやかな笑みを浮かべる。