第72章 誰もが心にラフテルを描いている。
そう言って華音はその場からさっさと立ち去ろうとする。本当にビジネス以外には興味が無いらしい。だが銀時としては華音をこのまま野放しにするわけにはいかなかった。踵を返して銀時に背を向ける華音の首元に、銀時は木刀を突き付けた。
銀時「待ちやがれ。」
華音「…何の真似かなぁ?」
明らかに華音の声色が変わった。先程とは違った意味で不機嫌になっている。背を向けていても分かる。華音は殺気を放っていた。銀時はピリリと軋む空気を感じ取りながら、己も威嚇するように緊張した空気を放つ。
銀時「てめぇをこのまま逃がせば薬は広まる一方だ。てめーに闘う意思がなかろうが、俺にはてめーを止める義務があんだよ。」
華音「無駄な正義感は寿命を短くするよ?」
その台詞を言い終わるよりも早く、華音は動いていた。素早くサッとしゃがみ込み、そのまま銀時の腹部へと痛烈な蹴りを入れる。
銀時「!?」
急に走った鈍い痛み。銀時は思わず木刀を落として腹を抱える。
銀時「ぐっ。」
華音「語弊があったみたいだから言い直すね。僕、余計な『闘い』は好まないけど、余計な『殺し』は嫌いじゃないんだよね。」
そう言って今度は銀時の顔面を蹴り込む。その攻撃はとても重く、銀時は近くの柱へと叩きつけられた。
銀時「がはっ!!」
背中を強く打ち付け、ズルリとその場にくずおれる銀時。華音は銀時の傍へと歩み寄り、うずくまる銀時の髪を掴んで顔を上げさせた。そしてゆっくりと自らの顔を近付け、その瞳を覗き込む。
華音「アハハ、インテリだと思って油断した?僕はこう見えても第三師団を率いる団長なんだ。そういえばまだ言ってなかったよね。覚えておいて。宇宙海賊『鐡(クロガネ)』。春雨に代わってこの時代を担う海賊さ。」
その幼い容姿には似合わない程の冷徹な笑みを浮かべる華音。華音は掴んでいた手でそのまま銀時の顔面を床へと叩き付けた。