第71章 他人の願いを優先するのは難しい。
その時、静かに部屋の扉が開いた。そこに現れたのは吉原管轄の奉行所長、鳥居だった。
鳥居「何事ですか?」
葵咲「!」
鳥居の姿を見た松島は、両手を擦り合わせながら鳥居の近くに歩み寄る。
松島「これはこれは!鳥居殿。」
菊之丞「鳥、居…!?」
鳥居の姿を見た菊之丞はみるみるうちに青ざめていく。そんな菊之丞の様子を見た鳥居と松島は、示し合わせたように嫌な笑みを浮かべる。
松島「先日お話しした違法薬物売買の下手人を捕らえたのです。」
鳥居「それはご苦労であった。こちらのお嬢さんも?」
松島「いえ、彼女は薬物を購入していた中毒者。」
まさかの中毒者扱いに葵咲は慌てて口を挟む。
葵咲「違います!何なら今すぐ検査してください!私から薬物反応なんて出ませんから!」
鳥居も共犯なのは明らかだが、曲がりなりにも奉行所の役人。その立場を踏まえた上で相手の話に乗ってみた。だがここで鳥居はその態度を一変させる。
鳥居「ふむ。それは…非常に困りますな。」
葵咲「!」
鳥居「菊之丞が犯人、そしてお嬢さんが常客、そういうシナリオじゃなきゃ困るんだ。」
とうとう明るみに出る鳥居の本性。葵咲としては内心ガッツポーズだが、もう暫く二人の脚本へと合わせて様子を見る事に。鳥居の台詞を聞いた松島は高笑いを上げた後、鳥居へと言葉を投げ掛けた。
松島「ああ、薬の件はご心配なく。今から彼女に投与しますので。」
葵咲「なっ!?」
自らの役を終えた鳥居は踵を返して部屋から出て行こうとする。
鳥居「承知した。ではぬかりなくな。」
葵咲「待って下さい!どういう…事ですか?」