第71章 他人の願いを優先するのは難しい。
その頃銀時は、獅童から現在の状況を事細かに聞いていた。傷を負い、一人で立って歩く事が困難な獅童に肩を貸して歩きながら。獅童は目を背けようとしていた真実も、嘘偽り無くきちんと話した。
獅童「…っつーわけだ。」
銀時「なるほどな。」
菊之丞が危険な状況にある事を聞いて、葵咲が慌てて掛けて行った理由が分かった。話を聞いた銀時は内心少し焦りを感じている。葵咲は自ら火の中に飛び込んで行くタイプの人間。状況が状況だけに、どんな危険に巻き込まれるか分かったもんじゃない。早く獅童の身の安全を確保してから葵咲の元に駆けつけなければ…。そんな事を考えていると、獅童を探していた花魁達に見つかってしまった。
「いたぞォォォォォ!」
銀時「んげェェェェェっ!!」
追ってくる花魁達の数の多さに、思わず顔を歪ませる銀時。獅童は辛そうな顔を浮かべ、銀時から離れながら言った。
獅童「アンタだけ逃げろ。俺の事はいい。」
銀時「あぁ?何言ってやがんだ!お前だけ放って逃げられるかよ!」
かと言って、今のように肩を貸しながらではすぐに追いつかれてしまう。銀時はチッと舌打ちし、獅童を背負って走る事にした。獅童に許可を仰ぐ事なく無理矢理担いだ銀時だが、彼のその身の軽さに驚いた。
銀時「…!?軽ゥゥゥ!!お前一体何キロなんだよ!?軽すぎだろ!女食う前に飯食っとけよ!!」
獅童の身長は180cmを超えている。自分より大きな獅童をおぶるという事で少し気合を入れて背負い上げたのだが、想定外の軽さに思わず振り返る。獅童は苦笑いを浮かべながら銀時に言葉を返した。
獅童「だからさっきも言ったろ。飯に変なモン混入されてたんだって。」
それを聞いて事件の深刻さを改めて実感する銀時。自分より長身の男を軽々と背負って走れるのだから、薬の作用は異常とも言える。だがこの状況では不幸中の幸いと言うべきか。獅童には悪いが背負って走るのには最適な軽さだった。