第71章 他人の願いを優先するのは難しい。
一方、銀時達のもとから駆け出して行った葵咲は、先程菊之丞と別れた場所まで戻ってきていた。
(葵咲:菊之丞さん、何処行ったのかな…。)
あれから暫く時間が経っている。そこにまだ菊之丞が残っているとは思っていなかったが、華月楼から出ていない事は確かだろう。まだ近くにいるはず。そう思った葵咲は他の花魁達に見つからないよう気を付けながら菊之丞を探す。その時、廊下の奥から花魁の声が聞こえてきた。
「こっちに来い!」
(葵咲:あれは…菊之丞さん!)
声のする方へ目を凝らすと、そこには数人の花魁達に連行されている菊之丞の姿があった。そしてその列の一番後ろにいたのは…
(葵咲:…松島!?)
花魁達と菊之丞の後ろには松島の姿があった。松島は扇子を口元に当てながら薄ら笑いを浮かべている。
(葵咲:マズイ、このままじゃ菊之丞さんが…!)
瞬時に今の状況を察した葵咲は、松島達には気付かれないよう細心の注意を払いながら彼らの後を尾行(つ)けた。